中西忠さんの連載コラム「音楽・老いのたわごと」で、先日「私の眼の奇々怪々」と題して不思議な体験が綴られた。視力のほとんどない左眼に不可解な映像が現れるというのだ◆アラブ人のような風貌の男で、バイオリンを弾いていたり、こうもり傘や番傘を持っていたりする。実在しない映像だとわかってはいるが、うるさくて仕方がない。困ったものだという一文。一読して、理屈では説明のつかない現象にとまどいを感じた。ご本人はユーモアを交えながら状況を明快に説明してくださった。他にも幾つかの映像が見えることがあるが、条件によって現れたり消えたりするという。調べてみればちゃんと説明のつくことかもしれないとインターネットで検索。「シャルル・ボネ症候群」という目の病気があることを知った◆病名は18世紀の博物学者シャルル・ボネの名から。純然たる目の病気であり、心因性のものではない。複数の眼科医のブログなどを参考に説明すると、「視覚システムの何かの要素が適切に作用しなくなった時、補おうとする脳の働きで独自に像が作られる」という現象である。実在しない映像と自覚があるのが、精神疾患との明確な違い。高齢の低視力者の10~40%に起きている可能性があるが、それを他人に訴える人は1%以下といわれる。「おかしくなったと思われる」のを恐れて誰にも打ち明けない人が多いとみられている◆「期間に個人差はあるが、いずれ消えるものであり、日常生活に支障がなければ特に治療の必要はない」という。「精神疾患ではないと自覚することが最良の治療法」だそうだ。人知れず悩む同様の症状の人は大勢いるかもしれない。「こんな目の病気がある」という事実はもっと広く知られるべきではないか。(里)

