「敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」―国学者の本居宣長がこう詠んだ桜は、現在日本に咲く桜の8割を占めるソメイヨシノではなく、古代より日本の野山の春を彩ってきたヤマザクラである◆休日、車に85歳の母を乗せて日ノ御埼などを巡り、咲き誇るヤマザクラを楽しんだ。母は昔からこの桜が好きで、筆者も子どもの頃からソメイヨシノと区別して覚えていた。葉はつけずごく淡いピンクの花をふんわりと咲かせるソメイヨシノとはまた違った風情で、赤みがかった葉と薄紅色の花の色合いがなんとも美しい◆ことしは県内のヤマザクラの一種に関するトピックニュースがあった。100年ぶりの新種発見である。紀伊半島南部に自生していた桜で、「クマノザクラ」と命名された。ほんのりと淡い紅色、花弁がややちぢれているようで華やかな印象を受ける。地元では「早咲きのヤマザクラ」と思われていたそうだ。桜の新種発見は1915年の大島ザクラ以来だという◆日本に咲く桜のおよそ8割はソメイヨシノだというが、桜の種類自体は数多く200種類もある。ヤマザクラ類は特に自然交配などで個体変異が多く、花の色や濃淡、新芽の色や樹の形などさまざまな違いがみられるという。クローン桜と呼ばれるソメイヨシノとは対照的だ。そういえば山道で車を走らせていても「これは何だろう」と首をかしげるような桜がたびたびあった。人間と同じで1本ずつが違った個性と歴史を持つようだ◆「早咲きのヤマザクラ」として過ごした年月も、神秘の地熊野の名を冠する新種の桜として脚光を浴びたことしの春も、クマノザクラ自身は何も変わらない。ただ自身の生を存分にまっとうしようと無心に花を咲かせるばかりである。(里)