読書の秋である。元々本が好き、というよりは、読むことは呼吸と同じなのでやめたら死んでしまう、というぐらいの活字中毒。なんでも手当たり次第に読むが、数年前から好きなのは浅田次郎と伊坂幸太郎だ◆浅田氏は65歳。「蒼穹の昴」など近代中国史の大作がある一方、痛快なピカレスク物も多い。「鉄道員(ぽっぽや)」で直木賞受賞。伊坂氏は46歳。コミカルな文体と会話を駆使し、現代感覚を盛り込みながら独自の世界を構築する。4年連続直木賞候補となったあと「執筆に専念したい」と選考対象になることを辞退した。作風は違うが「書くことが好きで好きで仕方がない」という気持ちが透ける語り口の面白さ、裡に何か熱いものが感じられるところが共通する◆先日、全国紙の取材記事で浅田氏は影響を受けた作家として川端康成を挙げていた。美しい作品という以上の印象は持っていなかったが「浅田さんがそう言うなら読み直してみよう」と思った。数日後、古本市で伊坂氏の単行本を買った。あとがきで影響を受けた存在として大江健三郎が挙げられていた。以前読んだ時は難解でかなり苦労したが「伊坂さんがそう言うならもう一度読み直してみたい」と思った。そして、川端康成も大江健三郎もノーベル文学賞受賞者だったと思い出した。ことしのノーべル文学賞受賞者が発表されたのはその直後。日系イギリス人作家のカズオ・イシグロ氏だった◆筆者などは読むことのほか人並みに満足にできることはあまりなく、こうなっても困りものだが、読書力は一生ものの財産であることは間違いない。子どもの読書率調査で近年の和歌山県はワースト1に近いが、ぜひ子どものうちから読む力を自分のものにしてほしい。いろんな世界が近くなる。      (里)