6年ぶりにアルバムを発表した鬼束ちひろに対し、「完全に元に戻った」という声が聞かれる。17年前に「月光」でブレイク、順調に活動を続けていたが、ここ数年は突飛な言動、奇抜なファッションばかりが話題で、ファンはそれを見るたび嘆息していた。
芸能界は楽曲以上に商品イメージが重要。業界関係者を「天才」とうならせた18歳の少女も、売らんがために虚像のキャラクターをつくられたか。それを壊すことは事務所からもファンからも厳しく規制され、そのストレスにもがき続けていたのだろう。見た目だけでなく、音楽そのものの復活と信じたい。
タレントや俳優にとって、いまやスキャンダルは事故や病気よりも恐ろしい。事件を起こしたならともかく、犯罪でもない不倫がばれた瞬間、すべての仕事を失う。芸能人にとってこれほど息苦しい監視社会はない。
監視社会といえば、防犯カメラやNシステム、スマホのGPS機能、マイナンバーなどが思い浮かぶ。国民の行動が知らず管理され、これには自由を奪われるといったマイナスイメージが強いが、一方で犯罪の抑止や行政コストの軽減といったメリットもある。
しかしどれほど情報通信・管理システムが進化しようと、大切なのは人と人の関係。教育や企業の現場で人の変化や失敗が許されず、弱い立場の生徒、社員が追放されてしまう。商品が傷つき、売り上げに響くことを恐れ、臭いものには蓋をする。法令遵守の名のもと蔓延するこの不寛容こそが、自殺やひきこもりの要因でもある。
横浜市教育委員会のいじめ対応、電通社員の自殺、セブンイレブンのバイトへのペナルティーなどをみても、鬼束ちひろの「月光」の世界がいまの現実と重なる。 (静)

