2年ほど前、書店である文庫本の表紙に心ひかれた。緑の中を地平線へ伸びる線路、広がる群青色の空、白と水色の立体的な雲の群れ。しばらく目が離せない美しさで、思わず購入した
 「君の名は。」という古風な題のアニメ映画が大ヒット、との報道で監督の名前「新海誠」に記憶をくすぐられた。その本を探し出すと表紙絵の説明に「?Makoto Shinkai」とあった。即、観に行こうと決めた
 ジブリアニメのファンで、宮崎駿監督の引退後日本のアニメはどうなるのかなどと思っていたので、観ながら昂揚感と安堵感を感じていた。作品にかける作り手の情熱の強さ、それに見合った技術的な質の高さ。両方が一致した素晴らしい作と思えた。これから観る人のために核心には触れられないが、一言でいうと少年と少女がすべてを超えて出会おうとする物語。観ていて伝わってくるテーマは、「強く願うこと」がどれほど大きなパワーを持ち得るか
 何よりも物語の深さとスケールが一番の魅力だが、特筆すべきは風景描写の美しさ。それを体感するためだけにでも、何度か足を運んでもいいと思うほど。細かい点では、観客の想像に任せず描ききってほしかった場面等もあったが、アニメ映画史上一つのポイントとなる作品であることは間違いない。映画ファンとしては収穫であった
 インターネットで監督について調べると「思春期の困難な時期に、風景の美しさに自分自身を救われ、励まされてきた」との言葉があった。多くの人の心を動かす作品は作り手自身の感動から生まれる。器用に作られていても、そこに「熱」のこもらない作品は人を感心させるだけで、感動させることはない。そして作品が人に与える「熱」は、また新たな創造の種となる。   (里)