花を見るのが好きで、街中を車で走っていても季節の花々に目がとまる。梅雨空の続くこの時期、花の主役はなんといってもアジサイである
◆休日に有田方面へ行ったところ、民家の庭先や沿道、畑の片隅と、文字通り至る所で美しいアジサイを見かけた。町の花か何かに制定されているのかと首をひねるほどの数の多さだったが、あとで調べると有田市には「あじさい寺」で知られる仁平寺があり、有田川町では「あじさい祭り」というイベントがある。「アジサイが美しく咲く街」というイメージのため、それぞれに努力しているのだろうか
◆当地方でもこの季節を美しく彩ってくれる、自慢の花がある。元日高高校教諭、故阪本祐二さんが遺したハスだ。美浜町三尾の大賀池では、阪本さんが発見者の大賀一郎博士の愛弟子だった縁で分根された古代蓮の大賀ハスが毎年清楚に咲く。市内北塩屋では阪本さんが生み出した「舞妃蓮」が4年前から休耕田で栽培され、地元有志と阪本さんの長男尚生さんの努力で実に見事なハス池となっている。そして阪本さん宅では、夫人の弘子さんが遺されたハス池を精魂込めて世話し続け、30種類もの多彩なハスが咲き乱れる様を楽しむことができる
◆3カ所とも街中を車で走っていて気軽に眺められるような場所ではなく、「ハスに会いに行く」ことを目的に出かける必要がある。だが、ゆっくりとした花との出会いを心に刻むことができると思えば、その時間にも価値がある◆どの花もそれぞれ、自然の命の美しさ、そしてかかわっている人に込められた心の美しさをみなぎらせて咲いている。物語を秘めた花がこの地に息づいていることを誇りに思いたい。 (里)