大きな新聞社には、毎日取材に出る記者以外に、遊軍という特定の部署や担当を持たず、社に待機しながら持ち込み記事や突発的な取材に対応する記者がいる。各分野に経験を積んだベテランでなければ務まらず、 チームを勝利に導くためには、前線の指揮官との意思統一が最優先されなければならないが、時間がないなかで目的を達成するためには衝突することもしばしば。
 直木賞を受賞した佐々木譲の『廃虚に乞う』では、凄惨な事件現場で心身のバランスを失い、心療内科医から長期休養を命じられたベテラン刑事仙道が北海道の事件現場を駆け回る。当然、捜査一課や所轄捜査本部の刑事からは「休職中の身でなにを勝手なことを...」と疎まれるのだが、現場の指揮官の立場、性格、プライドを傷つけないよう、捜査の枠の外から、遊軍的な動きで事件を解決に導く示唆を与える。
 読売のナベツネ、政治評論家の三宅久之らをモデルに、40年前の新聞社と政界を描いた山崎豊子の『運命の人』。主人公の記者は生臭い永田町と霞ヶ関を駆け回る政治部のエースで、一見、ネタほしさに政治家にすり寄るヨゴレ記者ながら、己の功名よりも読者(国民)のためにという筋が通っており、清濁合わせ呑みながらスクープ合戦の戦場で底なしの穴にはまってしまう。巨大な国家権力の前に、記者の矜持も折られてしまうが、導かれ、たどり着いた島で少しずつ人間性を取り戻していく。
 発想の幅はその人が動いた距離に比例し、現場を見、聞き、さわり感じてこそものごとの本質に近づける。学問なき経験は、経験なき学問に勝る。誇り高き記者も、刑事も、まちのリーダーも、自ら動かず、挑戦しない人間に成長はない。   (静)