先日、調剤薬局で薬が出てくるのを待っていたら、おばあちゃんふたりの会話が耳に入ってきた。「あんた、私この前、わけぎのぬたしてよう」「ええなあ、わけぎのぬた。私、甘めが好きやから砂糖多めに入れるんや」「あんたもそうかい。私も砂糖多めよ。わけぎのぬた、おいしいわなあ」。
ちらりと見ると、おばあちゃんたちはもう八十をまわったお歳だろうか、少し背中が曲がってシワシワで、小さくなった体。でも今も台所に立って昔ながらの家庭料理を作り続けているんだなあと、心がほっこりした。
わけぎのぬた、そういえばずいぶんと食べていない。子どものころは大嫌いで、母が食卓に並べるたび顔をしかめたものだ。大人になって食べられるようにはなったが、あんまり好きでもないので、まずうちで作らない。
そこで、ハッとした。うちの高校生の息子は、わけぎのぬたを知っているだろうか。うちの食卓には並ばないし、外食で高校生男子がわけぎのぬたを選ぶはずがない。知らないかもしれない。
わけぎのぬたは、昔ながらの日本の家庭料理。主に瀬戸内地方で親しまれる郷土料理だそうだが、この辺りでも一般的。息子がわけぎのぬたを知らないまま大人になってしまったら、将来構えるだろう自分の家庭の食卓に、わけぎのぬたは並ぶだろうか。奥さんが作ってくれるならいいが、奥さんもわけぎのぬたを知らずに育った人だったなら、その食卓にわけぎのぬたはない。そうしたら息子の子どももわけぎのぬたを知らずに育つことになり、そのまた子どもも…。そんなふうに思ったら、家庭の素朴な食文化伝承のためにもうちでわけぎのぬたを作らねば、とオカンとしての使命感を覚えた。(亜)

