昨年から今年にかけて、映画「国宝」の大ヒットで歌舞伎という芸術に若い世代の注目も集まっているようだが、2月20日は「歌舞伎の日」。江戸時代初期の1607年、歴史教科書等に必ず出てくる「出雲の阿国(おくに)」が徳川家康らの前で踊りを披露した日だという◆大人になって歌舞伎にハマるとは想像もしていなかった学生時代、教科書で勉強していた当時から「出雲の阿国」は印象に残っていた。日本史に登場する著名な人物といえばほとんど男性で、女性は卑弥呼、紫式部、北条政子、淀君ら数えるほどだが、一人の女性の踊りが歴史の教科書にも掲載され後世に伝え続けられるとは、「一体どんな踊りだったのか」と興味をそそられた◆和歌山県が生んだ文豪有吉佐和子は、芸術選奨、日本文学大賞を受賞した全3巻の大作「出雲の阿国」で、謎の多い彼女の生涯について克明に描ききっている。「たたら場(製鉄所)」の娘と設定し、その踊りを「火のように踊る」と表現した。「足の裏が地面につかないうちに早くも跳ねて、空中に身を浮かせているように見える」、と。重力から解放されたような宙乗り等の演出、軽快な足拍子は、今も歌舞伎の重要な要素である。時代が進み、歌舞伎は男性のみが演じるものとして確立したが、その始祖として一人の女性の名が残っているのは不思議なものだと思う◆舞踊歌舞伎の代表的な名曲は、当地方の名刹道成寺と縁の深い「京鹿子娘道成寺」。江戸時代の伝説的な女方役者・芳澤あやめも当地方の中津村(現日高川町中津地区)出身だ。歌舞伎に縁のある地方として、この第一級のエンターテイメントに関心を持つ人がもっと増えてくれればと思う。(里)


