来年の2度目の大阪での万博を前に、1970年の映画作品「家族」の上映会が和歌山市で開かれた。前回の万博が作中で重要なモチーフになっている。主催はわかやま寅さん会。当地方からも「寅さん」ファンら約100人が参加した◆実は、国民的映画「男はつらいよ」シリーズを一度も観たことがない。しかし寅さん会御坊日高支部の代表、橋本厚洋さんからシリーズ全50作が如何に素晴らしいかという熱い話を聞き、山田洋次監督の近作「キネマの神様」に感動したこともあって、山田監督の作品は機会があればぜひテレビ画面でなくスクリーンで観たいと思っていた◆長崎の貧しい一家が、新天地を求めて北海道を目指す。いまどきの飛行機や新幹線での快適な旅とはまったく様相の違う、何日も電車を乗り継ぐ強行軍。その途上では苦しみや悲しみも一家に襲いかかる。華やかな高度経済成長の裏にあった、生きるために戦う家族の物語。後半、北海道に移ると画面がぱっと明るくなったのが印象的だった。最後には先行きへの希望を暗示する◆山田監督と倍賞さんの対談では、半世紀以上前の撮影当時がついさっきのことのように生き生きと語られた。街中で突然始まるロケ。山田監督が台本をサッと高く掲げると、周辺のそこここで一般人に混じって待機していた役者とスタッフがすかさず集まって芝居が始まる。撮影とは気づかない一般人がよく話しかけてきたという◆山田監督は「寅さん」の家族について、「実は血縁そのものは薄く、皆が『家族』をつくっている。賢い家族。今、そういう心が必要なのではないか」と語られた。人と人が互いを「家族」として思いやる、そんな心のあり方を半世紀後の今に届けてくれた映画上映会だった。(里)