全国の書店員が最も売りたい本を投票で選ぶ、今年の「本屋大賞」大賞受賞作です。それだけにとどまらず、さまざまな文学賞や読んで欲しい本のタイトルを総なめ中で、今最もアツい作品といっても過言ではありません。

 舞台は滋賀県大津市。大津に住む女子中学生「成瀬あかり」が周りの人間を翻弄させながら、一風変わったチャレンジを繰り広げる青春成長物語。成瀬は関西弁ではなく、何故かである調で発言するのもポイント。「西武大津店」「滋賀市民センター」「湖風祭」など、地元住民に愛される(た)実在する建物や行事の名前も多数登場し、大津市では全国各地の〝成瀬ファン〟たちがこぞって聖地巡礼に訪れるという現象が起こっているようです。

 その一風変わったチャレンジの一部を紹介すると、成瀬が中2の夏休み、8月末に閉店する西武大津店に毎日通い、地元のローカル番組「ぐるりんワイド」の生中継に映り込もうと画策します。幼稚園からの同級生、島崎みゆきは成瀬から番組を毎日チェックしておいてと頼まれます。西武ライオンズのユニホームを着たり、〝閉店まであと〇日〟というカンペを持つなど目立つパフォーマンスを続ける結果、客に声をかけられたり、ローカル紙にインタビューされるように。そして最終日、なんと成瀬は身内の不幸で西武大津店に行けない事案が発生、島崎が代わりに行くという結末になります。最後の中継を終えた後、合流した2人は言葉を交わすのですが、成瀬の予想の斜め上を行く発言が素晴らしい。

 2人はその後M1グランプリに出場するなど、普通の青春とは一味違う青春の1ページを刻み続け、成瀬の野望に付き合わされる(?)島崎いいヤツ! と、わが道を行く成瀬最高だぜ! という気持ちになります。思いっきり青春出来なかった私は、この本で青春を取り戻せた気分になれました。成瀬、どんな大人になるんかな…。(鞘)