7月7日の出来事を調べていて、非常に印象的な逸話を見つけた。米国史上最年少の親善大使の物語だ◆11歳の米国人少女、サマンサ・スミス。筆者が高校生だった1983年7月7日、彼女はアンドロポフ書記長の招待客としてソ連を訪ねた。きっかけは、就任間もない書記長に彼女が手紙を書いたこと。元KGB議長の彼が政権トップに就いたことで、米国はじめ西側諸国には警戒感が広がっていた。ニュースを見たサマンサは母に「なぜみんなアンドロポフさんに直接聞かないの」と尋ね、母は「それならあなたが手紙を書けば」と返答。彼女は手紙を書いた。「あなたは戦争をしますか、しませんか」。この手紙はソ連の新聞「プラウダ」に載り、書記長は返信した。「大人も子供も、政府関係者も、誰も戦争を望んでいない」。手紙の末尾で「ご自身で判断してください」と、彼女をソ連に招待。サマンサは多くの人に歓迎を受け、友人も得て感激。「ロシア人は我々と変わらない」と話した◆帰国後も親善大使として活躍したが、2年後、13歳という幼さで飛行機事故のため世を去ってしまう。アメリカのみならずソ連の人々も悲しみをあらわにした。アンドロポフ書記長はすでに亡く、ゴルバチョフ書記長が弔辞。翌年、ソ連のチェルヌイフ氏が小惑星を発見し、「サマンサ」と命名した◆7月7日は、古希で他界した亡父の誕生日でもある。存命なら96歳。幼い筆者に世界情勢を解説してくれ、国家に自由が制限される社会主義国の存在をその時知った。だからこそ、東欧革命とソ連崩壊に興奮と感動を覚えた。翻って現在の世界を見た時、あらゆる交流と変革の歴史が無に帰された状況に言葉もない。4カ月半、憤りは同じ強さで持続している。(里)