この時期としては異常な暑さが続き、電力不足の懸念から家庭の節電も求められている一方、目下の参院選はそれほど熱さを感じない。物価高、エネルギー政策、安全保障…どれも喫緊の課題ではあるが、各党・候補者の主張は争点として有権者に響いていないか。

 米国の連邦最高裁が女性の人工妊娠中絶について、中絶を憲法上の権利と認めた49年前の判決を覆す判決を下した。同国では、女性の妊娠中絶は宗教観や生命倫理に基づく国論二分の大問題であり、政治的にも11月の中間選挙を前に波紋を広げている。

 判決が言い渡された日、ワシントンの最高裁前には中絶賛成派と反対派がプラカードを掲げて押しかけた。日常、宗教をあまり意識することがない日本人には分かりにくいが、この白熱ぶり一つをみても、米国民の信仰心の厚さ、伝統を守ろうとする人々の多さがうかがえる。

 とくに南部は保守派の住民が多いといわれる。トランプ前大統領の登場以降、女性の権利、選択を擁護するいわゆるリベラル派との対立が進み、オクラホマやテキサスでは女性の中絶を厳しく制限する州法の制定、あるいは制定に向けた動きが加速しているという。

 過熱する賛成、反対のイデオロギーの対立も、元は宗教の教義の違いが大きい。イギリス、フランス、カナダなどからも今回の判決に批判の声が上がっているように、見方を変えれば、中絶を合法化する世界の流れは、信仰心の希薄化なのかもしれない。

 信仰の違いはときに対立を生み、怒りが政治に結びつき、司法判断にまで影響する。大統領が判決を否定する米国ほどの過熱はどうかと思うが、宗教的にお気楽な日本人ももっと政治に熱くなりたい。(静)