「お金ないんやったらカードあるやん。また機械からお金出したらいいやん」。おもちゃ屋さんの前で子どもが母親に向かっていう。日ごろ、買い物のついでにATMで現金を引き出す母を見て、ATMとは誰にも無制限にお金をくれる機械だと勘違いしたらしい。

 小さい子ならそんなこともあるだろう。ちょっとかわいい話だが、親はきちんと教えなければならない。「あれは銀行にお金を預けた人だけが引き出せる機械なの。ママがいつもカードでお金を出せるのは、パパが一生懸命働いてもらったお給料を、銀行に預けてるからなのよ」。

 ちょっとした親の対応、周囲の指導で子どもはお金の大切さを知り、働くお父さん、お母さんへの尊敬も生まれるが、ここをおざなりにすると、将来、こつこつ働くことができなくなる恐れがある。

 ATMの仕組みを知らない子どもと同様、消費者金融の無人契約機も、お願いすれば家族にばれない方法ですぐに現金をくれる打ち出の小槌だと考えないとも限らない。そんな大人に、間違って何千万円もの金が振り込まれたら…。

 一度手に入ったものは俺のもの、どんな事情であれ返す必要はない。電子計算機使用詐欺容疑で逮捕された若者は、誤って振り込まれた大金をネットカジノで使いきったという。多くの人は驚き、いくつもの「?」が頭に点灯する。

 今回の事件に関し、容疑者本人の資質が最大の要因として断罪するのは容易いが、送金業務を新人に任せきりにしていた町の体制や地方自治体のデジタル化の遅れも背景として指摘されている。改善すべき点は多いが、連鎖する自死の問題も含め、まずは子どもに対するお金の教育、社会で強く生き抜くための教育が求められる。(静)