3月の最終日曜日、境内の桜が満開を迎えた道成寺で、3年ぶりに行われた芸能公演「桜・舞・道成寺」を初めて取材した。参道や境内は春風に誘われてやってきた観光客で大にぎわい。木陰のベンチでお弁当を広げる家族連れや桜の花の前で写真を撮るカップルなど、温かい日差しの中、花見を満喫していた。なんだか久しぶりに見る活気のある風景にとてもうれしくなった。

 桜・舞・道成寺は、道成寺の安珍清姫物語が題材となり、能楽や歌舞伎など「道成寺物」と呼ばれる多くの演目が生み出されていることから、道成寺を古典芸能の聖地として確立し、日高地方の魅力発信や文化振興、地域活性化の推進を図っている「おいでよ! 日高実行委員会」が主催している公演。

 今回の演目のメインは、地唄(京阪の三味線唄音楽)を伴って舞われる日本の伝統舞踊のひとつ「地唄舞」。出雲流を創流し舞とパントマイムを融合した「舞夢」を展開する出雲蓉(いずもよう)さんが自身で振り付け作舞した「古道成寺」が披露された。

 三味線に合わせた唄は「むかしむかしこの所に」と昔話定番の語りで始まる。舞は、幼い頃から恋心を募らせた娘が若い山伏に迫り、追いかけ、蛇となり、ついには鐘もろとも山伏を焼き尽くしてしてしまうという恐ろしくも一途な女性の心情が表現された。

 伝統芸能に疎い私には、取材しながらの初めての鑑賞で全てを理解するのは難しく、衣装や動きにどんな思いが込められているのか、撮った写真や動画と歌詞をあとから照らし合わせて少し分かった気になる程度。そこには果てしない奥深さを感じ、これまでかけ離れたところにあった文化に触れられる貴重な時間になった。

(陽)