NHK大河ドラマ「青天を衝け」が26日、最終回を迎えた。主人公の渋沢栄一にはほぼ関心はなかったが、回を重ねるに連れ、生き方と人生行路に多大な興味が湧いた◆幼くして父について商売を学び、商才を発揮。そうかと思えば幕末という時代の熱に触れ、燃えるような理想を抱く。成長したのちには、著書「論語と算盤(そろばん)」のタイトルが象徴するように、理想を見つめる視点と現実の問題に対応する視点、人間にはその2つの見方が必要なのだとの信念を持ち、それを実践した。「道徳経済合一説」である。吉沢亮さんの好演、熱演もあって、熱さと温かさを備えピュアな志を原動力とする、スケールの大きな人物像が見る側に迫ってきた◆80歳を過ぎても渡米して軍縮会議に参加。90歳を過ぎても中国の水害被災者に義援金を送るため、ラジオで国民に援助を呼びかける。すべて見終わってあらためて、「青天を衝け」という突き抜けるような爽快感を覚えさせるタイトルそのままに、人の世の未来のため力を尽くそうと走り続ける人生だったことに感じ入った。多くの人に愛され、葬儀には4万人が参列したという◆しかし、これほどの人物が力を尽くしてもかなわないことはいくらもある。集まった中国への義援金は、満州事変のため受け取りを拒否される。軍縮を主張しても、時代は戦争への道を歩んでいく。思うにまかせない世の動きに、それでもひるむことなく敢然と立ち向かい、できることをできる形でやっていった◆ラストでは、栄一達の物語の行く末は「今を生きる我々に託されている」と示された。人の遺した言葉や行動は、その時に実を結ばなくとも誰かの心の中で記憶として結晶する。それはいつか、誰かの原動力になるかもしれない。  

(里)