南海トラフの巨大地震の発生が懸念され始めて久しい。いつ起こるかは分からない自然災害に対し、住民は大津波に備えた避難訓練を繰り返してきた。行政も津波の高さや浸水域などをシミュレーションし、防波堤のかさ上げや避難路の整備などに巨額の費用を投じている。

 人間は命を守るために危険に対しては何らかの対処法を用意する。それは災害だけでない。病気に対しては健康診断の受診や食生活の見直しなど。交通事故に対してはルールを徹底させるほか、道路環境の改善などに努めている。危険と対策は表裏一体の関係といえる。

 大阪市北区の北新地にある雑居ビル4階クリニックから火災が発生し、男女24人の死亡が確認された。警察は放火殺人事件として捜査し、クリニックに通っていた61歳の男を逮捕した。犯行は可燃性の液体が入った紙袋を持って来院し、紙袋を蹴り倒してライターで引火させたという。周りにいた人は突然の出来事でどうすることもできずに被害に遭ってしまったのだろう。人生を断たれた無念さを思うと胸が痛み、残された家族らも大切な人を失い、深い悲しみに陥っていることだろう。いかなる理由や動機があっても今回の行為を正当化することはできない。

 事件の約1カ月半前の10月31日にも東京の京王線の電車内で液体をまいて火をつけ、乗客の70代男性が刺されたという事件があったばかり。今後も同じような事件が発生しないとも限らない。しかし、事件を起こした背景が「社会に対する不満があった。誰でもよかった」というなら特定の場所にとどまらずどこででも犯行が発生する可能性がある。対策を講じるのはかなり難しい。 

(雄)