のど元過ぎれば熱さを忘れる、良くも悪くも人はつくづく忘れるものだと感じる。日々新しい情報が更新され、脳の中も上書きされていくのだから当然なのだが、できれば常に心に留めておきたいことはある。津波防災もその一つだろう。先日の御坊市で最大震度5弱を観測した地震には肝を冷やした。同時に、地震のことはすっかり頭から離れていたという人も筆者だけではないだろう。常に心掛けるのは当然難しいが、不意打ちに起こる自然災害には余計に動揺させられる。


 筆者は所要で自宅に戻っていて、取材に出ようと玄関に向かって室内を歩いているときに強い揺れを感じた。「南海地震」が頭をよぎったくらいで、外に出た方がいいと下駄箱の扉を開けようとしたが、地震対策のロックがかかって開かない。押せばロックは解除される仕組みだが、とっさのことでそんなことも忘れていて、裸足で逃げることになるのか、このままじゃ取材にいけない、一瞬の間にそんなことが頭をよぎった。下駄箱の扉が開かない、たかがそんなことで冷静さを欠く。万が一のときに冷静に対応できるかどうか、まさに日ごろの準備次第だと痛感させられた。


 あなたの準備は本当に万全か、我々への自然からの警告だととらえるべき。避難している途中に転倒してケガをするかもしれない、仕事で土地勘のない地域に出向いているときに地震に襲われるかもしれない、自宅や職場にいるときはどうするか頭に入っていても、思いもよらないときに被災する可能性は十分ある。前回の昭和南海地震が起こったのは1946年12月21日、間もなく75年になる。いつ起こってもおかしくない、忘れている場合ではない。

(片)