写真=釣鐘の中から鬼女が現れる

 公益社団法人能楽協会、公益社団法人京都観世会主催の「能楽キャラバン! 一陽来復祈願in和歌山御坊」が11日、御坊市民文化会館大ホールで上演された。演目は十世片山九郎右衛門さんの「道成寺」、分林(わけばやし)道治さんの「翁」。休憩を含め3時間の本格的な能の舞台を約300人が堪能した。

 文化庁の大規模かつ質の高い文化芸術活動を核としたアートキャラバン事業。「翁」「道成寺」の順で上演された。

 「翁」は能の中でも別格の、儀式性の高い祝言曲。素顔で舞ったあと舞台上で翁の面を着け、人から神となって舞う姿を表現する。会場は神事のような緊張感に満ち、畳みかけるような調子の囃子、分林さんらの迫力満点の舞に観客はじっと見入った

 「道成寺」は1時間45分に及ぶ大曲で、日高川町鐘巻の名刹道成寺に伝わる安珍清姫伝説を基にした物語。今月18日まで京都から里帰り中の二代目釣鐘がモチーフとなっている。

 釣鐘が失われて久しい時が経った道成寺で、鐘の再興の日に白拍子の女が訪れ、女人禁制だが舞を見せることを条件に寺内に入る。乱拍子などを舞いながら鐘に近づくと鐘は落下し、女はその中に消える。僧らが鐘に向かって祈ると鬼女が現れ、僧に挑みかかるが祈とうの力に負けて去るという筋立て。「鐘入り」の前には長い間を取り、一転して「急ノ舞」となる。高く吊り下げられた鐘が落ちてくる中に能面を着けた白拍子が入り、僧らの祈とうで釣鐘が上がると鬼女となって姿を現す。僧との戦いが演じられ、舞台は「静」から「動」へ。観客は息をのんで見守り、最後に鬼女が去ってすべてが終わると大きな拍手が湧き起こった。

 美浜町から来た50代の女性は「本格的な能を鑑賞したのは初めて。別世界が舞台の上に現れたようで、感動しました」と話していた。