写真=揮ごうを終えた翔子さんとスクリーンに写し出された作品

 日高川町障害者芸術文化祭記念講演会が7日、高津尾の日高川交流センターで開かれ、「心に光を」をテーマにダウン症の書家金澤翔子さん(36)の席上揮ごうと、翔子さんの母泰子さん(78)の講演が行われた。

 久留米啓史町長のあいさつのあと、翔子さんが席上揮ごう。多くの観客が見つめる静寂の中、翔子さんはステージに広げた縦70㌢、横136㌢の全紙2枚に「飛翔」の2文字を10分ほどかけて書いた。完成後「元気とハッピーと感動の心を込めて書きました。一緒に飛び乗りましょう」と話し、その力強い文字に大きな拍手が送られた。

 泰子さんの講演では、翔子さんとこれまで過ごしてきた日々について語られ、「出産後52日目にダウン症と宣告され、当時は障害者への理解がなく隠して育てることになった」「生きてちゃいけないと思い込み、一緒に死のうと思っていた」など当初の辛かった心の内を話した。それでも周囲や翔子さんの明るさに支えられ、「なんとかやっていけるかもしれない」と幸せを感じる生活を送っていても、何度となく絶望の淵に立たされた。そのたび泰子さんは、翔子さんと書に取り組み、翔子さんが書の基本や持続力を習得、書家としての人生を歩むきっかけとなった20歳の個展開催につながったとし、「この絶望がなければ、翔子が書家になることはなかった」と話した。

 翔子さんの書を見た人が涙を流す等人を引きつける理由については、「翔子は世俗に対する欲望がない世界に生きていて、あるのはみんなに喜んでもらいたいという思いだけ。それが周囲を明るくし、幸せにする不思議な力を持っている」。最後に「席上揮ごうや個展も400回を超え、みんなに喜んでいただけるいい仕事ができています。障害があっても人権が侵されることなくとても幸せです。人生は何が待ち受けているか分かりませんが、生きてさえいれば、絶望はない。私が35年かけて獲得したこの言葉を皆さんにお伝えしたい」と話した。

 翔子さんのダンスの披露やパラアート展などで入選している上戸一輝さん=和佐=と久留米町長から2人に花束の贈呈も行われた。