東京オリンピックでの選手たちの活躍に感動を与えられたという人は多いだろう。日本は史上最多の58個(うち、27個は金)のメダルを獲得した。

 テレビや新聞はメダルを獲得した選手ばかりに注目しがちだが、白血病から回復した池江璃花子選手や、体調不良から復帰した大坂なおみ選手の姿にも大きく心を打たれた。アスリートたちの奮闘する姿は、コロナ禍で苦しむ世界の人々を勇気づけたと思う。

 しかし、唯一ふに落ちなかったのが開・閉会式の演出だ。なぜか開・閉会式のテレビ中継を見ていると、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになった。画面越しに観る無観客の国立競技場の上空からの映像は、屋根のないフィールド部分だけが明々と電灯をともしていて、心に穴が開いたような気持ちと重なってしまった。
 そう感じた原因は、開会式前に噴出したスタッフたちのスキャンダルや不祥事のせいだろう。過去のいじめ体験を恥じない音楽家や、ユダヤ人への差別的言動の発覚、不明瞭な理由で大会組織委員会メンバーが相次いで交代したこと等は、世界的にも大きな話題に上ってしまった。

 数十年に一度の国を挙げたイベントとは到底思えないドタバタ劇。71年前に自死した三島由紀夫は、死の4カ月前に「このまま行ったら日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない、或る経済大国が極東の一角に残るのであろう」と警告してた。延期により行われたオリンピックの開・閉会式は、ニッポンの要素を感じさせない、美辞麗句だけのからっぽな、無機質な、経済的利益しか考えていない様で、なぜか三島の言葉を体現しているように思えた。(也)