本紙の企画「終わらざる夏 それぞれの戦争を訪ねて」(今月5~14日付掲載)の取材で、日高町出身の海軍中佐、故吉野伊太郎さんによる海軍機関学校時代の「修養記録」を、甥の田嶋弘章さんからお借りした。限りある紙面ではほんの一部しか紹介できなかったが、読み込むほどに引き込まれる◆主に海軍軍人による講話への学生の所感などが記されたノート。のちに海軍中将となった今村信次郎司令官の講話の所感では、ピストンなどを分解して故障を防いだ実例を挙げて「究明は海軍軍人に特に必要なり」と教えられたことを述べ、「究明は単に機械のみならず、勉強でも運動でもすべて必要なり。究明する所には必ず進歩発展がある」と、戦争末期の軍部の無茶な精神論とは対極にある、論理的で明晰なものの見方に感銘を覚えたことを述べている◆「勉強について」の一文では、「我等が将来取り扱う機関は実に科学の粋を集む。また帝国海軍の進歩発展ということは機関の発達に負う所極めて大なり」とし、分隊は一致協力して互いに勉強を教え合おうと提案。「温習室において隣の者が居眠りをしているのを見れば必ず身体を揺すって起こしてやれ。上級生なりとて遠慮するなかれ」とある記述は学生らしくてほほえましい◆理想に燃える聡明で健康な若者だった吉野さんは過酷な潜水艦搭乗から病を得て、戦後間もなく30代の若さで他界された。一人一人の内面的な長所などを生かすことなく人間を物理的な武器ととらえ、戦力を人数で数えた「戦争」という行為。その非情さと理不尽さに慄然とする◆今もなお、各地で武力抗争は続く。世界はいま、立場を超えて知恵や技術を追求し、共有しなければ乗り切れない災厄に直面しているというのに。(里)