お食事中の方は絶対に読まないでいただきたいが、思い返せば子どものころの自宅は〝ぼっとん便所〟だった。うんと小さい頃は親についてきてもらったが、ある時一人で行ったら「危ない」ということでとても心配された。それもそのはず、当時の汲み取り式の便所は深さ2~3㍍あり、はまり込んでしまったら、強烈な臭いの中で命が危ない。さらにぼっとん便所でのお決まりは〝おつり〟。便が落ちたあと、お尻にし尿が跳ね返ってくる。これを防ぐためには便を出した瞬間に立ち上がる、そんなテクニックが必要だった。そして、し尿がある程度たまればバキュームカーで汲み取ってもらっていた。

 いまではほとんどの家庭で水洗トイレが当たり前で衛生的。半面、水を流せばすぐ消えてしまう便がどのように処理されているのか、子どもたちが関心や疑問を持つことは減っているのかもしれないし、大人たちでもふと疑問に思っても、まじめに調べたり、だれかに聞いたりすることは、はばかられる。排泄は人が生きるうえで非常に大事なことであるにもかかわらずである。

 そんな疑問に鋭く切り込んでいるのが、本紙でも紹介した「うんちの行方」(新潮新書)。印南町古井出身で文藝春秋元副社長の西川清史さんと著述家の友人との共著。地元出身でつい最近まで文藝春秋の副社長をしていた人がいたこと自体驚きだが、この本の中にはいまの子どもだとおそらく知らないうんちに関する情報が山盛り。現在の処理方法はもちろん、飛鳥・平安時代には側溝に便が捨てられていたことや、平成になっても海洋放棄されていたことなど。環境問題を考えるうえでも、子どもたちにぜひ読んでもらいたい一冊だ。    (吉)