写真=歴史が古く文化的価値が高い千里王子

 みなべ町は今年度、県指定文化財史跡の千里王子を国指定に格上げするための申請を行う。千里王子は1000年以上の歴史を持つといわれる非常に古くからある熊野九十九王子の中の一つで、約250年前に建てられた本殿は屋根葺き替えなど改修しながら今もその姿を保っており、文化的な価値も高い。将来的には高野熊野世界遺産への追加登録を視野に入れており、まずは第一歩として国指定史跡を目指す。

 千里王子は千里観音の近くにあり、アカウミガメの産卵地として有名な千里の浜を目の前に望む。千里王子社の縁起によると、延暦年間(782~806)に鎮座とされている。南部町史でも平安時代後期の歴史物語「大鏡」に寛和2年(986)花山法皇が熊野参詣の際に歌を詠んでいることや、天仁2年(1109)の藤原宗忠の「中右記」にも記載があることなどから、「古くから王子社が建立されていたと推察される」とされている。応永24年(1417)、足利義満の側室北野殿の「熊野詣日記」には、浜に打ち寄せる貝を社殿に供えたので「貝の王子」と称するようになったと記されており、今も社殿には貝が飾られている。

 江戸時代には徳川頼宣が寛文4年(1664)に拝殿を建立し、復興に尽力した。明治には須賀神社に合祀されたが、安永5年(1776)建立の本殿は残された。社殿の建築年代が確かな王子社としても貴重である。

 現在は地元山内区の有志でつくる「治勝会」が管理しており、立派な社殿が丁寧に維持されている。文化庁から視察に来た際にも「国の指定に当たるものでは」との見解が示されたという。

 今は新型コロナの影響で少なくなっているものの、海岸沿いの「紀伊路」の熊野古道を歩く観光客も多く、将来的には印南町の切目王子や日高町の鹿ケ瀬峠などとともに世界遺産追加登録が目標。町教育委員会の担当課では「まだまだ遠い先の話にはなるでしょうが、世界遺産に登録されることを夢みて取り組んでいきたい」と話している。