毎年、3月には楽しみにしている取材があった。日高高校の箏曲部・合唱部の定期演奏会だ。◆しかし、その毎年の楽しみを、昨年の3月には味わうことができなかった。いうまでもなく新型コロナ禍の影響である。およそ3カ月の長い休校、6月という遅い部活始め、文化祭などの発表の機会もない。この特殊な年度の締めくくりの3月、両部の定期演奏会が2年ぶりに開かれることとなった。筆者ほどの年配になると、あっという間だが、3年生にとっては1年生の時以来、2年生には初めての舞台である。そう思うと、2年間という時間の長さが重みをもって感じられる◆箏曲部は「六段の調」「もののけ姫」「月虹の中で」など6曲を演奏。二十数年前、まだ文化会館の大ホールでなく学校の一室で発表会が開かれていた頃から同部の演奏を聴いてきた。メンバーは入れ替わっているはずなのに、「凜」の一字がふさわしい、心に迫ってくるような清冽な響きはずっと変わらない。合唱部はミュージカル「ウィキッド」などを披露。一人一人の伸びやかな歌声に心をつかまれ、それが重なって生まれるハーモニーに心を揺さぶられる。生のステージならではの味わい深いひととき。昨年3月に披露されるはずだった「リトル・マーメイド」のナンバーを、3年生が1人ずつ役の衣装で演じてくれたのも非常によかった◆今月1日、紀央館高の卒業式を取材した。卒業生代表の言葉に「私たちは『コロナ世代』と呼ばれることになるが、コロナに苦しめられた世代ではなく、コロナを乗り越えた世代」とあったのが印象に残った。箏曲部の清冽な音、合唱部の伸びやかな歌声。それを聴衆に届けられたことが、「乗り越えた」証かもしれない。(里)