「ネタバレ」という言葉が市民権を得たのは平成になってからだそうだが、もっとずっと以前からミステリー作品などは「ネタバレ厳禁」が常識だったと思う。ところが先日見たNHKの番組で、若い世代は「ネタバレOK派」が多いらしいと知った◆小説や映画の結末など、あらかじめ調べておいてから観賞する。その方が楽しめる、という。中学時代からミステリーファンの筆者には、驚天動地というほどではないがミステリーのどんでん返しと同じくらいには「えっ」と驚いた。まったく、若い人の考えることは分からないと思いながら見ていたが、番組中盤で、そんな世代の価値観が生まれた背景について解説があった◆震災や不況という不安な時代背景のもとで成長した世代には、どうなるかわからないという「ドキドキ」が、楽しい好奇心の「ワクワク」には結びつかない。むしろ不安や恐怖といったネガティブな感情を誘ってしまう。予想通りの展開に安心し、分かっている結末へ向かってどう進んでいくのかという興味で楽しむのがいいのだという。絶対安心、絶対安全を求める心がそうさせるのか◆筆者も現実の世界ならもちろん、何につけても絶対安心、絶対安全を求めたい。神ならぬ身の人間が営む世界に「絶対」などないと分かってはいても、そう望みたくなるのが人情というもの。しかし、だからこそ物語の世界では思う存分、ハラハラドキドキさせてもらいたい。どんでん返しに「えーっ!」と驚きたい。一つしかない現実世界を離れ、幾パターンもの追体験が楽しめるから物語という存在は貴重なのだ◆時代の閉塞感に取り込まれないよう、極限状況にもパワーを発揮できる柔軟な心を、物語のドキドキを味わうことで育てておきたいものだという気がする。(里)