今回紹介するのは2005年に発行された推理小説家石持浅海の「君の望む死に方」。前作の「扉は閉ざされたまま」も本欄で紹介しましたが、前作は殺害した死体を発見されないように、何としても死体がある部屋の扉を開けさせないようにする犯人に、頭脳明晰な主人公碓氷優佳が迫るというものでした。今作も主人公は碓氷優佳。前作同様、犯人が最初から分かっているという「倒叙(とうじょ)もの」。08年には松下奈緒主演でテレビドラマ化もされました。

 ストーリー 余命6カ月のガン告知を受けたソル電機社長の日向が、社員の梶間に、自分を殺させる最期を選んだ。日向には、創業仲間だった梶間の父親を殺した過去があったのだ。梶間を殺人犯にさせない形で殺人を実行させるために、幹部候補を対象にした研修を設け、花瓶、アイスピック、クレセント錠、酒瓶などさまざまな凶器も用意。彼の思惑通りに進むかに見えた時、ゲストに招いた女性・碓氷優佳の推理が、計画を狂わせ始めた…。

 殺したい梶間と殺されたい日向。互いに一致した思いの2人が、計画のために用意した仕掛けを次々に無効にしていく探偵役の碓氷が本作の醍醐味。一見して何も起こってないように見えますが、実は当事者の頭の中で攻防が繰り広げられています。至るところに伏線があり、ロジック対決は、まさに石持作品ならでは。碓氷の観察眼のすごさには圧倒させられます。

 それにしても犯人サイドの視点になる倒叙ものは、犯人側に感情移入してしまうので、計画が暴かれる度に負けた気分になってしまい、碓氷を意地悪に感じてしまうことも。ラストにスパッと犯人を言い当てる王道の推理小説もいいが、発生していない事件の真相を看破するというのも面白い。