映画「ソワレ」が御坊でも好評上映中ですが、タイトルは「夜会」を意味する言葉。そんなタイトルの司馬遼太郎短編集を、昔買ったまま読んでいなかったなと引っぱり出してみました。読んでみると和歌山県とも深い関わりのある一編でした。「司馬版こんな所に日本人」という感じです。

 内容 木曜島は、オーストラリア大陸の北端に浮かぶ小さな島。この海底は、高級ボタンの材料となる白蝶貝の宝庫だった。明治の初め頃から太平洋戦争前まで多くの日本人がこの島で働き、大変な量の貝を採った。友人の伯父が昔、そこで「ダイヴァー」として働いたと聞き、著者は南紀州の熊野・古座川へ友人を訪ね伯父達に会う。岩のような「熊野顔」の彼らに木曜島のことを聞くと少年のような顔になり、「あんな面白いことはなかった、30も若ければもう一度やりたい」と言う。著者が島の歴史を調べると、英国商人は最初、原住民に潜らせたが、彼らは海底を好まず失敗。マライ人、中国人も駄目。日本人だけが、異常なほどの量の貝を海底から採ってきた。英国人の歴史学者は理由として「彼らの精力と成功への強い衝動、高い賃金を得たいという熱望」を挙げていたが、友人の伯父達は「少し違う」という。家族へ仕送りするため金はいくらでも要るが、それだけではない。「初めは欲だが、だんだん金銭から離れてゆく。自分の以前の記録と、他の船に対する競争」だけになるという。

 後半で著者は実際に木曜島へ出かけ、島にただ一人残された元日本人ダイヴァーの家で開かれる夜会に出席するのです。

 「日本人とは何か」というのが司馬氏の生涯を通じての大きなテーマですが、南半球の小さな島でも日本人はやはり日本人であった、という発見が詩情豊かに描かれます。