山師たちによって発見された鍾乳洞の史実を後世に伝えたい――。由良町衣奈の吉村美恵子さん(78)が先月末、戸津井の鍾乳洞近くで経営していた土産物店を資料館にかえ、パネル12枚を展示して歴史の伝承を始めた。吉村さんは「父が作業員として採石していたので、当時の話をよく聞いていた。鍾乳洞に関わった山師(鉱山技術者)たちの心意気を後世に引き継ぐことが念願でした」と話している。

 1913年(大正2)から鍾乳洞の周辺で石灰岩の採石が行われ、発破作業で偶然に鍾乳洞の入り口となる大きな穴が発見された。数日後、山師たちは安全対策を施してロウソクの火を手に中に入った。上から垂れ下がった鍾乳石がロウソクの灯りに照らされ、「この世にこんな美しい石があったとは」「我らの宝物や」などと神秘的な光景に見とれた。噂はすぐに広まり、毎日のように大勢の見学者が訪れるようになり、鍾乳石を持ち帰られることが相次いだという。鍾乳洞の発見から約10年、入り口付近の鍾乳石はほとんどが持ち去られた。危機感を抱いた山師たちは「せめて残っている分だけでも守らなければ」と、洞窟の入り口を塞いで守った。

 美恵子さんの父で現場監督だった元兵衛(もとべえ)さんも山師の1人で、その事実を娘に伝えていた。75年に大手新聞に「危険で入れず、すぐに閉じられてしまった」という記事が掲載され、「事実と異なる。本当の歴史を伝えたい」と思いが強くなったという。

 展示しているパネルは11枚で、縦120㌢、横84㌢。文章は美恵子さんで、イラストは親類の嶽出(だけで)政彦さん(59)=衣奈=に依頼した。今年3月から経営していた土産物店を閉店し、店内にパネルを展示。7月末から戸津井鍾乳洞資料館としてオープンさせた。

 美恵子さんは「山師たちが鍾乳洞を守ってくれたおかげで、いまの鍾乳洞がある。父親から遺言のように聞かされていた史実を後世に伝えたいと思います」と話している。

写真=資料館に展示されているパネルと吉村さん