7月には「君の名は。」の新海誠監督と組んで新作アニメ映画「天気の子」を公開する映画プロデューサー、川村元気による対談集をご紹介します。相手は誰もが知っているビッグネーム、12人の巨匠です。

内容 12人のラインナップは、山田洋次、沢木耕太郎、杉本博司、倉本聰、秋元康、宮崎駿、糸井重里、篠山紀信、谷川俊太郎、鈴木敏夫、横尾忠則、坂本龍一。皆クリエイターとして超一流。いわゆる団塊の世代に属する60代後半から70代の人が多く、最年長は山田洋次監督と詩人の谷川俊太郎氏で1931年生まれ。最年少はプロデューサー・作詞家の秋元康氏で1958生まれです。

一方、話の聞き手である著者は1979年生まれで、彼らの多くからすると子どもよりも下の世代。私には「20代の若いうちに早々と成功した苦労知らずの人」という勝手なイメージがあり、ちょっとした不信の色眼鏡を掛けて読み進んだのでした。

するとなかなかどうして聞き上手で、一癖も二癖もありそうな巨匠達が、なんだかみんな優しい。嬉々として、それまで取り組んできた仕事の極意など語っている。12人のただ者でなさと共に、著者もただ者ではなかったのだなと認識を新たにしました。

腕のいい彫刻家が木の中から見事な像を刻み出すように、著者が巨匠から引っ張り出した名言。

「僕らの世代は他人の映画の悪口ばっかり言っていた。でも、後になって、批判する頭のよさより、いいなぁと惚れ込む感性の方が大事だと思うようになったね」(山田洋次)

「若い連中が騒いでいた映画があって、死に瀕している恋人を病院から連れ出すんですよ。それで、連れ出すまではよかったんだけど、その娘が気息奄々(えんえん)となってきたら慌てて救急車を呼ぶんです。僕はその展開に頭にきて『そこで死を看取れ』と意見したら、若者たちから総スカンを喰らいました。だってもしも発作が起こって死んでも、自分の腕の中で死なせてやるというくらいの覚悟がなかったら、そもそも男のやるべきことじゃない」(宮崎駿)

「音楽も映画も、ほとんどは亡くなられた偉人たちとの対話でしょう。到達できないような人がたくさんいるので、『下を見ちゃいかん』というのが僕の戒めなんです。日本では昔から『上ばっかり見ちゃいけません』と言いますけど、ものづくりに関していうと、下を見て満足していたら、そいつは終わりですよ」(坂本龍一)

著者は巨匠達との対話を経て、単なる義務的な「仕事」でなく、人生を楽しくするためにするのが「仕事。」だと定義づけます。仕事にマルをつけて肯定する、と。そんな言葉が出る感性もただ者でなさの表れかもしれません。