マニアックなファンを数多く持ち、水木しげるの信奉者でもある人気作家の「怪作」をご紹介します。

 三池崇史監督、神木隆之介主演の映画「妖怪大戦争」に提供した原案を、全面的に書き改めた作品です。

 物語 妖怪専門誌「怪」でバイトする榎木津平太郎は、編集長と共に水木しげる大先生から緊急呼び出しを受けた。行ってみると大先生は「イカンですよ」とほえる。戦争中にすら日本からいなくなったことのない「見えないもの達」の気配が最近まったく感じられないという。「このままではあんた、ニッポンはおかしくなりますよ」人間はお化けがいなくちゃ生きてはいけないのだ、と。

 一方、編集者や怪奇作家達はあちこちで信じられないものを目撃。浅草の雑踏に紛れ込んでいた一つ目小僧、深山のほこらの中の石に棲む「呼ぶ子」。世の中全体に不穏な「気」が満ち、新幹線の線路を朧車が走るに到ってついに殺人事件まで起こる。世論は全てを妖怪のせいにし、妖怪愛好家を槍玉に上げた。頭を抱える「怪」関係者。しかし何かがおかしい。社会全体が必要以上に殺伐とし、どこか狂っている…。

 私は著者の代表作「百鬼夜行シリーズ」のファンで、題まで予告しながら一向に発表されない次回作「鵺の碑」を首を長くして15年も待っているのですが、著者はこのメインシリーズを放ったらかしてあきれるほど多方面で活躍。私は他の作品はろくに読んでいませんが、本書は「百鬼夜行」に通じるものを感じ即購入。博覧強記、駄洒落満載、他の誰にも真似できない冗舌体を満喫したのでした。

 薀蓄(うんちく)と内輪ネタであふれる「怪作」ながら、「妖怪も棲めないほどの息苦しい時代」への考察には鋭い視点が閃き、現代社会の問題を顕在化させた傑作ともいえます。