加藤シゲアキ著 角川文庫 560円(税別)

男性アイドルグループNEWSの一員で小説家、加藤シゲアキの初の短編集をご紹介します。昨年文庫化されました。

内容 美大に通う「僕」はそつなく課題をこなし、優秀な成績を挙げ、かわいい彼女もいる優等生。卒業を控え、すべてに退屈している「僕」の前に奇妙な女子学生が出現した。居酒屋で1人食事しながら、さりげない仕草で自分のむき出しの両腕にカラースプレーを吹き付ける。それだけでなく、酔ってケンカを始めた2人の男子学生の顔にも派手に吹きかけ、飲み代を置いて颯爽と出ていく。強烈な印象を残した彼女と、間もなく深夜の橋の下で再会。コンクリートの橋脚に、カラースプレーでダイナミックなグラフィティを描いていたのだ…。(「染色」)

202×年、人々は「イガヌ」という食材の魅力に取り付かれていた。十数年前の12月、突然空から大量に降ってきた未知の生物。猿の頭のようで三つの大きな目玉と歯のない口があり、頭部から直に短い足が生えている。「いがぬっ、いがぬっ」と奇声を発することから名前がついた。あまりのおいしさに18歳未満は禁止されたが、17歳の女子高校生美鈴の家では祖父が厳しく家族の誰も食べない。だが美鈴は友達に誘われ、禁断のイガヌを口にする…。(「イガヌの雨」)

全く異なる世界を描いた8編。表題作はなく、雨に降られてバラバラになるアリをイメージしてタイトルをつけたそうです。そのセンスもすごいけど中身もすごい。意表を衝く設定、展開。心が温まったり読後感が爽やかだったりするわけではまったくない、ざらっとした不協和音の感触を持つ尖った物語にオリジナリティと作家性を感じます。アイドルというより若手作家としてテレビを見てしまいそうです。(里)