蝉の鳴き声が一層暑さを増幅させる夏本番、ことしも8月6日に広島市、9日には長崎市で原爆の日式典が行われ、国民皆が平和への誓いを新たにした。広島の原爆資料館にはこれまで3度訪れたが、20歳そこそこのときに初めて見学した際の衝撃は忘れられない。生まれたときから平和な世の中。それほど戦争について考えることはなかったが、資料館の展示物、写真は目を覆いたくなるような惨状で、「戦争はしたらあかん」と心の底から感じたのを覚えている。あの頃と今とでは展示が少し違っているが、日本人として一度は訪れてほしい場所である。

終戦記念日に合わせて本紙ではことしも戦争体験者への聞き取りを通した体験談を連載し、戦争の恐ろしさ、愚かさ、平和がいかに幸せかを訴えている。連載メンバーに加わって5年、これまで多くの体験者に貴重な話を聞くことができた。南方トラック諸島で壮絶な飢えと戦った人、シベリアでの想像を絶する過酷な抑留生活、戦艦大和でレイテ沖海戦に参加した男性、満州に侵攻してきたソ連兵からまさに命からがら母と逃げきった少年の記憶など、心に残る経験談ばかり。本当にそんな時代があったのかと、遠い遠い昔話のように思うが、わずか73年前に実際にあった出来事なのである。

連載へ向けて毎年体験者の方を探すのだが、20歳で徴兵検査を受けて、実際に戦地に赴いたとなれば、御年95歳前後の方になる。近い将来体験者がいなくなるのは必然。ことし取材させていただいた人は、兄の戦争体験を生前に聞き取っていた弟さんだった。家族の戦争体験、家族が聞き取った戦争体験、埋もれている経験談はまだあると思う。ぜひ情報提供を。  (片)