近畿大学が昨年6月から由良町戸津井沖で行っているクエの養殖試験は、2年目スタートとなった先月、いけすの台数を一気に2倍に増やし、養殖魚を5500匹追加した。1年目の2300匹が順調に育っていることを受け、養殖に一定の手応え。当初、白浜町への初出荷は3年後を予定していたが、クエシーズンとなることし11月にも前倒しで行う。
 白浜町の近大水産研究所は20年越しでクエのふ化から成魚までの完全養殖に成功し、平成19年から「紀州本九絵」として出荷。白浜のホテルや旅館、レストランなどで提供され、天然クエに比べ安価なことなどから大人気となっている。天然のクエと競合することなく、相乗効果でクエのPRにも一役買っている。近大では、これまで白浜町で人工ふ化させたあと、九州南方の奄美大島で養殖していたが、供給量が足りなくなってきたため、別の養殖場所を探していたところ、由良町と地元漁協から戸津井漁港沖での養殖の申し入れがあった。戸津井沖には、10年前までマダイの養殖場があり、クエの養殖にも適していると期待されていた。
 養殖1年目は、いけす(12×12㍍)を6基設置。白浜町で人工ふ化して、奄美大島で3、4年中間育成したクエ2300匹を持ってきて育てており、当初重さ1・4㌔だったのが、今月8日現在で1・8㌔にまで成長。死んでしまうクエはほぼいないという。2㌔にまで大きくなれば出荷できるとされており、このままいけば11月か12月にも初出荷される。2年目は、いけすを新たに6基設置し、1㌔と1・5㌔のクエ合わせて5500匹を追加した。
 漁港の一角には、エサを保管したり飼育状況をチェックしたりするための事務所も設置されている。連日、漁船で沖に出てエサやりをしている近大水産養殖種苗センター白浜事業場の前田茂樹さんは「いまは水温が25度でエサの食いが大変いい。この養殖場は白浜などに比べて水がきれいで潮の流れもよく、由良で育った養殖クエはおいしい身になるのでは」と期待している。
 県内でクエの養殖場は白浜町以外には由良町だけ。町内には天然クエを提供している旅館などがあり、PRにもつながりそうだ