近畿大学が昨年6月から由良町戸津井沖でクエの養殖試験を行っており、1年目は順調に育っている。近大のクエは白浜町と九州南方の奄美大島で養殖されているが、養殖ものの人気が高まるとともに出荷量が追いつかなくなり、新たな養殖場所を探していたところ、同町と地元漁協から申し出があった。近大では「水が美しく水温も低いので身のしまったおいしいクエになる」と期待している。
 白浜町の近大水産研究所は20年越しでクエのふ化から成魚までの完全養殖に成功し、平成19年から「紀州本九絵」として出荷。白浜のホテルや旅館、レストランなどで提供されて人気となっている。天然のクエと競合することなく、相乗効果でクエのPRにも一役買っている。近大では、これまで白浜町で人工ふ化させたあと、奄美大島で養殖していたが、供給量が足らなくなってきたため、別の養殖場所を確保する必要があった。今回、白浜町以外で養殖場所に選ばれたのは由良町が県内で初めて。戸津井漁港沖では、10年前まで地元漁師が行っていたマダイの養殖場があったことなどから、クエの養殖にも適しているのではないかという話になった。
 戸津井漁港沖では、現在いけす(12×12㍍)を6基設置。白浜町で人工ふ化して、奄美大島で3、4年中間育成したクエ2400匹を持ってきて養殖している。昨年6月当初は重さ1・3㌔だったが、23日までに1・8㌔まで順調に成長した。3年間で3㌔程度になる予定で、白浜町に出荷される。ことし以降も毎年2400匹程度を奄美大島から持ってきて養殖していく。
 漁港の一角にはエサを保管したり、飼育状況をチェックするための事務所も設置されており、毎日魚の状態を確認している近大水産養殖種苗センター白浜事業場の前田茂樹さん(61)は「冬場のいまの水温は12、13度。クエは20度以下になるとあまり育たなくなる。年間を通して温暖な奄美大島に比べると成長スピードは遅いが、由良町は水が美しく、潮の流れもあって養殖にはもってこいの環境。おいしいクエになると思います」と話している。
 近大側は戸津井漁港沖の利用に際して、漁場料を納めている。クエの養殖場として由良町のPRや地元旅館ななどで提供している天然クエのPRにもつながると期待されている。