約80年前、移民開拓団として満州国に渡った家族を持つ県内の男女11人が3月26日から1週間、当時の開拓団が生活していた中国吉林省を訪問する。昨年10月に放送された満州国で生まれた父を持つ女優を紹介したNHKの番組を通じて、集まった11人。NHKの取材に協力し、吉林省へも2回の訪問経験がある御坊市藤田町吉田の会社員大串斉さん(49)が中心となり、現地でそれぞれの家族の足跡をたどる。
 満州国は昭和7年、日本の関東軍の主導で中国東北部に建国された独立国家。当時の日本政府は、同盟国満州国への移民を推進。移民の総数は27万人とも32万人とも言われており、和歌山からも、近畿一円から送り出された「黒石屯(むら)開拓団」の一員として1000人以上が送られた。20年の日本敗戦により、満州国は消滅。移民団は日本への引き揚げを始めたが、一方的に日ソ中立条約を破棄し、侵攻してきたソ連軍により、多くの死者を出した。
 大串さんの父辰助さん(享年86)=日高川町田尻出身=も12年から満州に渡り、引き揚げ後、御坊の藤田町で生活を始めた。父の死後、戸籍謄本などで父が満州開拓団だったことを知った大串さんは、資料を集めたり、実際に中国を訪問するなどして足跡をたどるとともに、自身のウェブサイトに公開していた。
 NHKが昨年6月、俳優などの家族にスポットを当てる番組で、満州で生まれた和歌山出身の父を持つ女優を紹介。その女優の祖父について調べる際、大串さんのサイトを見つけ、協力を依頼。大串さんは取材に協力し、父の過去の人脈などを伝ってNHKとともに、移民者やその家族らの家庭を回った。取材を受けた家族らから「父や母が満州で生活した場所に行ってみたい」などの要望があったほか、昨年10月の放送後にも同様の問い合わせがNHKにあり、ことし3月に訪中することになった。
 訪問団は11人で、日高地方からは大串さんのみで、ほかは和歌山市や田辺市の人たち。父や母が開拓団だった人が多く、年齢は60~80代、大串さんを除き吉林省へは初めてとなる。現地では訪問経験者の大串さんが中心となって、現地に残されている「和歌山村」と書かれた看板を訪れたり、11人の父や母が生活していた家などを探す。大串さんは「NHKが縁で集まった11人。現地で家族らの足跡を見つけることができれば」と話している。
 大串さんとは親同士が知り合いだったという岩本長子さん(66)=田辺市下三栖=は、「義父母が開拓団だったので、満州での生活や引き揚げのときの悲惨な様子を話してくれていました。一度、どんな場所で生活していたのか見てみたいと思い、参加することになりました」と話している。