有事の際、最も危険で困難な任務を与えられる陸上自衛隊の精鋭部隊、レンジャーの訓練が大阪の信太山駐屯地で行われ、美浜町の第304水際障害中隊・和歌山駐屯地の2人が訓練を修了した。約1カ月の体力訓練のあと、潜伏や戦闘など山中の特殊任務を想定した9つの実戦訓練があり、スタート時の28人のうち最後まで残ったのはわずか7人。12日には駐屯地で帰還式が行われ、約80人の仲間が爆竹を鳴らして2人を出迎えた。
 レンジャーは陸上自衛隊で最も過酷な訓練で、食糧補給が困難な戦場で敵陣深く侵入し、重要攻略目標が任務となる。信太山駐屯地での訓練は4月15日から始まり、近畿各地の中隊から選りすぐられたタフな隊員28人でスタート。体力、水泳、身体能力の計15種目の素養試験で11人が脱落し、続く約1カ月の体力訓練、敵陣内の作戦を想定した山岳訓練を経て、第304水際障害中隊・和歌山駐屯地の池崇志陸士長(20)=芦屋市出身=と藤原克久一等陸士(19)=奈良市出身=ら7人だけが修了した。
 後半の山岳訓練は9つの想定があり、1想定当たりの訓練時間は70~80時間。食糧・物資の補給がない戦場で生き残り、確実に任務を遂行するため、ほとんど飲まず食わずで、重い荷物を背負ったまま山の中を動き回る。最もつらいのはのどの渇きと眠気だが、弱音を吐いたり一瞬でも眠ってしまうと教官のゲキがとぶ。体力、精神ともに極限まで追い込まれ、池陸士長と藤原一等陸士はともに「山岳訓練では幻覚を見ながら」耐え抜いたという。
 3カ月ぶりに駐屯地に戻った2人を待ち受けていたのは、仲間の"生還"を祝う和歌山伝統の爆竹花火。火薬のにおいがたちこめるなか、自身もレンジャー資格を持つ中村祐治中隊長兼駐屯地司令は2人に対し、「教官の罵倒、のどの渇きに耐え、自分の弱さを克服し、よく駐屯地に帰ってきたな。これからは少しリラックスして、一緒に訓練に参加しながら最後まで残れなかった人たちのことを忘れず、レンジャーとしての誇りを持って頑張ってくれ。おめでとう」と優しく声をかけた。
 地獄のような訓練を振り返り、池陸士長は「山岳訓練は第5想定あたりであきらめそうになりました。子どもみたいですけど、『訓練が終わったら冷たいコーラを飲もう』と、そればかり考えてました」とにっこり。藤原一等陸士も「自分は第7想定で心が折れかけ、先任助教に『もうダメです』と泣きついてしまいましたが、そのときの痛烈なゲキで目が覚め、72時間、眠らずに歩き通すことができました」と、ダイヤモンドをかたどった栄光のレンジャーバッジを手に笑顔をみせた。
 日本一小さな和歌山駐屯地からのレンジャー修了は、日高町出身の北畠大毅三等陸佐(30)以来6年ぶり。今回の2人を含め、同駐屯地のレンジャー有資格隊員は7人となった。