「町全体でとても大きな被害を受けたので、地域のためにも特産の灯は絶対に消すことができません」。
 30年にわたりホロホロ鳥を飼育している玉置さん=船津=。幸い坂本地内の飼育小屋の被害は免れ、406羽の鳥も無事だった。ただ、同地内にある町有の解体処理施設が全壊し、現在も鳥肉を出荷できない状態は続く。施設内の冷凍庫に保存していた大量の鳥肉や機材も損害を被り、水害発生当初は「再開のめどが立たず、先が真っ暗だった」という。
 「収入は別にして地域の活性化につながれば」と、町内で取り組みが始まった当初から生産に携わり、現在は長男の守さん(51)とともに同地内にある県の養鶏研究所から買い入れたひなを育てて出荷している。ついに先月、在庫も底を尽きて町内の飲食店や観光施設からホロホロ鳥の姿が消えてしまったが、「生産者も役場も観光施設もしんどい。こんなときこそみんなで痛みを分かち合って支え合っていきたい」と愚痴一つこぼさず出荷再開へ備えている。
 明るい兆しは見えている。町が復旧を進めてきた解体処理施設は今月9日に完成。あとは保健所の検査を待つばかりで、年明けから供用開始の見通しが立った。「施設復旧だけでもありがたい。待ち遠しくて、毎日現場に足を運んでいました」と笑顔が戻り、16日には真新しくなった施設に入って解体台を前に「また一から頑張るで」と決意も新た。
 玉置さん以外の2軒の農家は、共同使用していた中木地内の飼育小屋が水没、390羽が死んだ。自分のことのように心配だった仲間の1人は、町の支援策(県と合わせて3分の2以内補助)等利用して小屋を再建、飼育再開の予定。まだ40歳代と若く、将来を担う人材だけに「指導も協力もしますよ。もり立てていきます」と全力のサポートを誓う。
 神経質で育成は難しいとされる鳥だが、15年ほど前から特産品として定着し、近年は焼き鳥対決などで全国的にも知られるようになった。「ホロホロ鳥は生産者も農家も観光に携わる人々も、地域の人みんなに恩恵と幸せを運んでくれるんです。苦労は惜しみませんよ」。被災農家が立ち直るまで自分一人でも頑張っていく。逆境をものともしない情熱を受け、日高川町のPRに一役買ってきたホロホロ鳥が再び町内外に羽ばたく日は近い。