尾崎さん=皆瀬=は11月18日、美容室「パーマハウス あむーる」をリニューアルオープンさせた。女手一つでの再出発。「お世話になった方への感謝の気持ちを忘れず頑張っていきたい」と大切なはさみを握る。
 水害の夜、阿田木地内の高台にある知人宅へ避難できたが、父が営む理髪店兼自宅の一角に構えた店は大きな濁流に襲われた。夜が明けてすぐに戻ると、まだ水が渦を巻いていて近づけない状態。昼過ぎになってやっと様子を見に行けたものの、自宅は2階まで浸水、店内は物が散乱してめちゃくちゃだった。周辺一帯に漂う泥の臭いで心が折れそうになるなか、これまでともに過ごしてきたはさみを真っ先に探した。ワゴンの上とケースの中にそのまま残っていたのを見つけ、少し落ち着けた。
 昭和63年に和歌山市からUターン。地域の人の支えがあって、20年以上も頑張ってこれたとの思いがある。水害から2週間が過ぎ、片付けもひと段落したころ、常連客が「カットだけでもしてくれへんか」と来店。「やるからには中途半端な仕事はできない」とためらったが、「お客さんあっての私」と汚れを落としてきれいにしたはさみを手に取った。捨てるつもりにしていた鏡を立てかけ、食卓用のいすをセット。カットが終わり、 「気持ちよくなったわ」との声にやる気を取り戻した。義援金や保険金がもらえるか分からず、思い切って商売道具を処分しようかと悩んだが、日に日に増える客の笑顔に心は自然と美容室再開へ向かった。
 しばらくは雨が降ると夜中に目が覚め、いまでも雨量が多いという天気予報に不安を感じる。避難した際、美山大橋をのみ込む水の勢いに圧倒され、その夜、恐怖で一睡もできなかったことを思い出すからだ。休まず働く役場職員には感謝の半面、「避難指示は遅かった。寝ている間に水がきて冷たいよでは遅い。放送設備も個別受信機もあったのに、地域に合った情報がほしかった」と防災対策の見直しを求める。
 生活再建も軌道に乗りつつあり、「本当に皆さんのおかげ。奇跡的に生き残ったはさみも励みになりました」と新店舗で笑顔を見せる。「お客さんが帰るときに、にこっとしてもらえるように」。初心を胸に、きょうも明るく「いらっしゃいませ」と客を迎える。