「『1年目やのにかわいそう』とよく言われましたが、自分の農業を考え直すいい機会でした。ただ元通りにするのではなく農業をかっこいい職業にしていきたいと思う気持ちが強くなりました」。
 祖父の代から70年以上も続くミカン農家の松井さん=松瀬、まるまつ農園=。日大農獣医学部(現生物資源科学部)を経て1年ほど農業に従事したあと市外三ヶ町国保組合で11年間勤務し、今春、同組合解散を機に父親の後を継いだ。職員は全員、関係する役場や市役所への再雇用が約束されていたが、「意欲も衰えることなく頑張っている両親を見て、僕の代でやめてしまうのは寂しいと感じていました。就職前に農業をした時も楽しかったし」。周囲の反対の声も押し切った。
 水害では松瀬地内、日高川漁協南や北にあったハウス4棟が全壊。倉庫も完全に水没、農作業用重機やトラクターが故障した。9月3日の夜は秋祭りの寄り合いがあり、「帰宅した時は水が増えてきていてどうしようもない状態。もう少し早くダム放流の情報提供があれば機械類だけでも運び出せたかもしれない」。数百万円とみられる修理費に悔しい思いが募り、行政には「情報提供のやり方を見直してほしい」と強く望んでいる。
 水害後、元職場の上司や同僚、友人ら15人がボランティアにきてくれた。たった一日でハウス2棟をきれいにしてもらい、感謝の気持ちでいっぱい。「僕たちも負けていられない」と大きな励みにもなった。9、10月の2カ月間は連日午前7時から10時間以上も復旧に当たり、一息つく暇もなく11月下旬からは松瀬や中津川地内の温州ミカン収穫へ。ちょうどいまが大忙しの時期を迎えているが、やる気がみなぎる。
 「作物のよさを一番分かっている自分たちで売りたい」と、ネットショップ(まるまつ農園で検索)に積極的に取り組んでおり、将来的には自分で作った作物の加工、販売も夢の一つ。現在、作付の8割が温州ミカンだが、今後はデコポンを広げていく計画で、「試験的に栽培していたハウスは水没しましたが、中の100本ほどの幼木は奇跡的にほとんどが無事。収穫には数年かかると思いますが、いいものを作って喜んでもらえるように頑張っていきます」。就農1年目の困難を乗り越え、 「農業をかっこいい職業へ」 との挑戦は続く。