1120.jpg 平成20年3月末現在、県内の65歳以上の人は26万4111人で、全体の人口に占める高齢者の割合(高齢比率)は25・3%。高齢者の数は年々、増加傾向にあり、20年度でついに4人に1人が65歳以上となりました。1人暮らしの人は約19%の4万9765人、寝たきりの人は2・1%の5564人。過疎の進展により、都市部より田舎の方が高齢者の割合は高く、高齢者や認知症の人を支える福祉基盤の充実が求められています。シリーズ「認知症」の第2回は、3年前、市内藤田町藤井地区に開設された認知症対応の地域密着型複合施設「あがら花まる」を取材しました。
 
 日高地方には訪問介護(ホームヘルプ)、訪問看護、 訪問入浴、 通所介護 (デイサービス)、 通所リハビリなどの介護保険サービスを提供する事業所があり、 認知症対応型ではグループホームと呼ばれる複数の患者が共同で生活する共同生活介護事業所が3カ所、 デイサービスが2カ所あります。 市内藤田町藤井にある 「あがら花まる」 は、 和歌山市で総合病院の中谷病院や介護事業所、 御坊市で中紀クリニックなどを展開している医療法人裕紫会が平成18年10月に開設しました。 1棟で9人ずつが共同生活を送るグループホームが2棟、 一日最大12人まで利用できるデイサービスのほか、 小規模多機能型居宅介護の機能も備えているのが特徴です。
 グループホームでは、 忘れっぽくなり、 自宅での生活が難しくなった人たちが在宅感覚で自由に共同生活。1ユニットの定員は9人、 「あがら」 と 「花まる」 の2ユニットがあり、現在は男性4人、 女性14人が利用。それぞれに個室があって、 基本的に食事や洗濯はスタッフがしてくれますが、 自宅での生活リズムや個々のライフスタイルを大切にするため、 料理や洗濯も手伝うことができます。 家具や調理器具、 電化製品もすべて一般家庭用をそろえ、 間取りも明るくゆったりと工夫を凝らしたアットホームな雰囲気。 小規模な施設のなかで家族のような仲間、スタッフと過ごすことで、 ひきこもりの防止や意欲創出に効果がみられ、 男性スタッフが料理をしていると自発的に手伝ったり、 仲間として、 ライバルとして、いい意味でさまざまな刺激を受けているそうです。 基本的には何をするにも自由、 決められたスケジュールはなく、 それぞれの個室も自分の家として、 ドアのところに木の立派な表札を掲げ、 家族と話をするために専用の黒電話を引いているおばあちゃんもいます。
 あがら花まるでは、 グループホームやデイサービスの利用者は地域の住民の1人。近くにある大成幼稚園や藤田小学校の子どもたちとは互いに訪問しあって、 交流が続いていて、 デイサービス管理者の玉置哲也さん (28) は 「私たちスタッフも皆さんに楽しんでもらおうと、 めんこやけん玉など昔の遊びのレクリエーションを企画するんですけど、 ここへ来てくれる園児や小学生には勝てません。 子どもたちが来たときは本当に楽しそうで、表情から違うんですよね」 と苦笑い。 また、 地区の行事にも積極的に参加しており、 先日はデイサービスを利用している山本ヨシエさん (78) が水につけてやわらかくした新聞紙を使って、 30㌢ほどのかわいいお地蔵さんを作りました。 普段から新聞紙で小さなお地蔵さんを作っていましたが、 89歳の宮崎オタネさんや女性のスタッフと盛り上がり、ヨシエさんがお地蔵さん、 オタネさんとスタッフが赤い帽子とよだれかけを作り、 「あがら地蔵」 と名づけて藤田文化祭に出展したそうです。
 認知症に限らず、 高齢者の介護は顔なじみの関係がとても重要。 「通い」 「泊まり」 「訪問」のサービスが一体となったあがら花まるの小規模多機能ハウスは、 認知症症状の有無にかかわらず、 要介護認定を受けた人がデイサービス、ショートステイ (短期入所)、訪問介護の各サービスを利用できます。 たとえば、 デイサービス利用者の家庭の事情で 「きょうはこのままここへ泊まりたい」 「あしたは家に来てほしい」などといった要望に、デイサービスと同じ顔なじみのスタッフが対応。 これは高齢者、とくに認知症の患者にとっては重要で、 人とのつながりを大切にしながらフレキシブルに対応しています。
 これら、 デイサービス、グループホーム、小規模多機能ハウスが一体となった事業所は珍しく、介護保険サービス提供事業者として市の指定も受けた地域密着型複合施設。市が藤田地区をモデルとして取り組む認知症高齢者地域支援体制構築事業の拠点施設としても期待されています。市内の要介護認定を受けている在宅高齢者のうち、約3割の人になんらかの認知症症状がみられるといわれており、認知症対応型のグループホームも待機者が多いのが現状。これに対応し、あがら花まるでは平成22度、グループホームの増床を予定しています。自宅で生活していても、1人暮らしだったり、昼間は家族が仕事で留守になる人も多く、認知症のために外出したまま家に帰ることができなくなった人もいます。 グループホーム管理者の池田敬一さん(32)は 「認知症とはこういうものだと正しく理解し、近所の人らが見守ることで、認知症になっても在宅で過ごせる人は大勢います。地域で支え合うまちづくりのため、私たちもしっかり情報発信していきたいと思います」と話しています。